本日の11時と14時の2度に分けて、日本刀展の出品者のお一人である西村直真刀匠による、刀剣づくりに欠かせない道具である「鞴(ふいご)」の操作体験イベントを実施しました。
西村直真刀匠
刀剣の制作には原料となる玉鋼を1,300℃の超高温に上昇させて熔かす必要があります。燃焼を促すために炉内へ風を送り込ませる装置こそが鞴であり、今回ご持参いただいたのはヒノキやスギなど燃えにくい木材でできた全長2尺(約60cm)の「箱鞴(はこふいご)」です。
箱鞴(「吹き差し鞴」とも称する)
本体中央部下に送風口がある
箱鞴は注射器の構造と同じ様に、箱に付いているピストンを押し引きすることで風を発生させます。鞴から送り込まれる風は高い密度で圧縮されているので、燃料となる炭の燃焼を強く促すことができます。この構造は鎌倉時代から変わっていないそうです。
箱鞴のピストンをタヌキの毛皮で包むことで
内部の空気をスムーズに送風口へ注げるようになっている
ちなみに、踏み板を上下させて風を送り込む大型の鞴が「踏鞴(たたら)」(「天秤鞴(てんびんふいご)」とも)と呼ばれるものです。
たたらはスタジオジブリの映画『もののけ姫』(1997年)でも登場しますが、その中で板の踏み手である番子(ばんこ)の女性たちが歌って汗を流しながら重たい送風板をひたすら踏み続ける大変そうなシーンがあります。この様に鉄を熔かす工程は重労働だったので、番子は炉内の高温を維持するために互いに交代しながら1日中絶え間なく板を踏み続けていました。(これが「代わり番子」の語源だとか)
西村刀匠のお話しは非常に分かりやすかったです
箱鞴を実際に動かしてみると、実はたたらの送風と同じ様に結構ハードなのだろうとわかりました。ピストンを5~6回押引する程度ならば何ということもないですが、西村刀匠のお話しによると、脇差1振分の玉鋼を熔かす場合ならば、ほぼ1日は休まず動かし続けなければならないそうです!
「動かし続けて腕が腱鞘炎になってしまいました…」と西村刀匠がおっしゃるのも納得できました。
一押しするだけでも強い風が吹き注ぎます
「これを動かし続けるってのはちょっと…。」
鞴を使って絶え間なく風を送り続けるこの工程は、玉鋼に刀剣として生まれるための生命の息吹を吹き込ませている様に見えました。
玉鋼を叩き鍛え、鞴に風を送りこむ刀匠による作業によって美しい日本刀が創造されるのです。
11時、14時の両イベント終了後も西村刀匠への質問コーナーは続き、鞴のことのみならず、作刀に関する話題も展開され、非常に充実した学びの時間となりました。
西村刀匠が愛用されている他の道具も紹介されました
(左の塊が刀剣の原料である玉鋼)
日本刀はいよいよ明日29日で閉幕です。